学生アルバイトオススメ本 ?

第110回 異世界ファンタジーが好きな人?苦手な人にオススメ

オススメ本
  図書館 学生アルバイト 佐藤綾
  私のオススメ
  『十二国記』シリーズ(全15巻)

   小野不由美著
   新潮社 2012年7月-2019年11月発行


 このシリーズの舞台は、慶?奏?範?柳?雁?恭?才?巧?戴?舜?芳?漣という12の国が幾何学模様のように配置されている中華風の異世界であり、それぞれに、天の意思を受けた麒麟に選ばれた王が麒麟や官吏、民たちとともに国を治めています。このように、それぞれの国の王や麒麟、そこに関わる人々を主人公とした作品集です。
 私はエピソード1である『月の影 影の海』から読み始めましたが、これは、日本から突然連れ去られ異世界に来てしまった高校生陽子が、苦難に満ちた冒険を経て、成長しながら王を目指していく話です。上下巻ありますが、なかなか希望が見えません。追い詰められていく陽子がどのようなことを知り、どのような選択をするのかが非常に興味深い作品です。
 ファンタジーを苦手に思っている人はいると思いますが、この作品は、そんな人にも読んでもらえると思っています。ファンタジーというと、魔法を使うような世界を連想しますが、このシリーズでは「魔法」は存在しません。異世界でありながら背景設定が綿密に練られているため、どこかリアルに感じることができます。
 『月の影 影の海』の解説を行った北上次郎氏は「ファンタジーを苦手とする私がぐいぐい読まされたのは、それらのファンタジックな設定が物語の衣装にすぎないからだ」(p.262)と言っており、状況設定と巧みなストーリーの背後にある、全シリーズを通して共通して流れている「人が人として生きる上の本文とは何か」「信義とは何か」「人を信じるとは何か」といった太いテーマがあるからこそ、感動と感銘があると述べています。
 また、十二国記シリーズに関して、『魔性の子』という作品がありますが、これは、発売当初はシリーズではなく長編ミステリホラー小説でした。しかし、その後十二国記がスタートし、シリーズが進んだことで実は番外編であったことが分かりました。そのような背景から、全シリーズを通しての主人公がエピソード1の主人公である陽子なのか、エピソード0の主人公である高里なのかは読者によって変わってくるそうです。このように、シリーズが始まる前からシリーズの伏線があったという展開には驚かされました。
 十二国記は、風景描写や登場人物の感情の変化などが細かに描かれているため、より鮮明に物語を想像しながら読むことができます。人によっては、くどくどしていて読み難いと感じてしまうかもしれませんが、そこが小野不由美さんの作品の良いところであり、それが作品の雰囲気を作っていると思っています。飢餓や貧困、反乱や謀反、王座簒奪がはびこる異世界を冒険しながら、小野不由美節の効いた作品をぜひ楽しんでください。


※バックナンバーはこちらです


?